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2012年7月31日 (火)

大船渡綾里地区の復興まちづくり計画の支援活動(長文)

春からの綾里地区の支援活動について、少しまとまった文章を書きましたので、ここにあげておきます。書いたのは饗庭と、富士常葉大の池田浩敬先生、木村周平先生です。

悩みながらやっていますので、アドバイスなどありましたらお願いしますね。

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大船渡市三陸町綾里地区の復興まちづくり計画

1 大船渡市三陸町綾里地区の概要

 大船渡市三陸町綾里地区は、合併前の三陸町にあった吉浜地区、越喜来地区とならぶ3つの地区の一つである。典型的なリアス式海岸の地区であり、明治、昭和、チリといった度々の津波の被害にあってきた。特に明治三陸大津波においては、本州で観測された津波では当時最も高い遡上高である海抜38.2mを記録したことで有名である。また、津波について多くの著述を残した在野の津波災害史研究家の山下文男氏の居住地でもあった。(山下氏は東日本大震災後の2011年12月にお亡くなりになっている)

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綾里全景。右奥が越喜来湾で、その一部までが綾里である。

 主要な産業は漁業であり、特にワカメ、ホタテの養殖が安定した収入を地域にもたらしている。人口は約2700人、東日本大震災の死者は26人である。巨大な津波に襲われているが、防潮堤がある程度機能したこと、避難行動が迅速に行われた事、現地では「復興地」と呼ばれる昭和三陸大津波時の高所移転地がほぼ安全だったことから、相対的には被害が少なかった。

2 復興まちづくり計画支援の経緯と体制

 この地区では、災害後の7月に「綾里地区復興委員会」が設立され、活動を開始している。これは地区を構成する集落(現地では部落と呼ばれている)の代表者を中心にした50名ほどの組織であり、復興にあたっての地域の要望をとりまとめ、二度にわたって「提言書」「要望書」を市長に対して提出している。高所移転や公営住宅の建設についても被災者の要望をとりまとめ、地区内で2カ所の防災集団移転促進事業、1カ所の公営住宅(県営)の建設が決定しており、現在は用地の最終調整中という状況である。防潮堤の高さについては、過去からも何度も被害にあっていることから、強い反対意見もなく、県が示した案の通り決定している。

 他の被災地ではこういった組織すら立ち上がらず合意形成すらままならない状況があるなか、綾里地区は相対的には進みが早いと言えよう。しかし、これまで専門家の手を借りずに作成してきた要望書は個別の要望を束ねただけのものであり、そこから地区の将来の姿がはっきりと見えてこない。具体的な空間像に落とし込みながら復興の計画の検討を進められないだろうか、と依頼があり筆者ら(筆者らに加えて災害復興まちづくり支援機構・首都大学東京饗庭研究室)がサポートを行うこととなった。

 こうした相談が持ち込まれたのが2012年の3月頃であり、5月よりほぼ月に2回のペースで調査やワークショップが重ねられている。あまり時間をかけると復興の遅れにもつながるので、2012年8月を目途にまず最初の「復興まちづくり計画」の案を作成することとしている。

 地区復興委員会に対して示した復興まちづくり計画の策定の目標は次の2点である。
①10年間程度の復興まちづくりの計画をつくる
②計画が絵に描いた餅にならないように、それを実行するための地域の体制とそれを支えるための行政や外部支援の体制を整える

 組織体制としては、50名の復興委員会ではなく部会を設けて議論を行うこととした。具体的には各集落毎の部会と、漁港周辺については漁協が中心となる部会を設立してそれぞれで議論を行うこととし、その結果を復興委員会ですりあわせていくという枠組みとした。これは50名では十分な議論が出来ないこと、また、長期にわたるであろう復興まちづくりを担える体制につながるよう、地区の新しい担い手を掘り起こすことを企図したものである。綾里地区には11の集落があり、全部会を同時に設立するとサポートの手が行き届かなくなることから、4つの集落をあわせた中心部部会、被害の大きかった田浜集落部会、地区のまとまりがよい小石浜集落部会、漁港周辺の土地利用を喫緊に議論しなくてはならない漁協部会を立ち上げて当面の活動を行っている。

Fig1_2
模型を囲んでいるところ

3 検討の進め方

 このような目的と体制でスタートし、各部会でパラレルに検討を進めているが、各部会で共通して行っていることは、情報を生み出し共有する場を作る、情報の流れを作る、外からの情報をその流れに載せるということを繰り返すシンプルなものである。

 ここでいう「情報」とは、復興に関する要望であったり、アイデアであったりと理解していただきたい。十分な量の情報があり、そこに多くの人が関わるほどに情報の質があがっていく。復興まちづくり計画とは、それらの情報をある時点で束ねたものである。

 これは綾里地区に限らないと考えられるが、被災地の、特に個々の被災者のレベルになると復興に関する情報が十分に流れていないし、被災者とそうでない人たちの格差も広がっている。特に都市部ではないところでは古くからの地区の意思決定の方法が残っており、「地区のリーダーと市役所がいつものように決めてくれるだろう」という意識があることも少なくない。地区の中で情報が生まれず、交換されず、流通せず、結果的に十分に検討されたない復興計画がいつのまにか決定され、いつのまにか使いにくい空間が出来ている、という状況につながる可能性が高い。

 こうした状況に陥ることの無いように、地区に内在する情報を表出させたり生み出したりする場をつくること、地域の外側にある情報を入れたりして情報の全体量を増やすこと、増えた情報の流れをよくするために、情報を流れやすく加工したり、情報が流れる経路を開拓していくこと、こういったことに取り組んでいる。

4 具体的な取り組み

 具体的に取り組んでいることは以下である。

1)調査の実施やワークショップの開催
 被災者の個々の声や地域の空間的な資源など、地域に内在する情報を集めるために行っている。ワークショップではただ言いっぱなしにならないよう、地図や模型をコミュニケーションの媒介となるように準備し、出された情報もその場でまとめながら行っている。写真は大きな地図を作成して、そこに提案や要望を書き込んでもらうワークショップの風景であるが、参加者が自然に地図の上に車座になり、熱心な復興の議論を行っていたのが印象的である。

Fig2_2
大きな地図を使ったワークショップ

 また、一度目のワークショップを開催した時点で、女性の意見(綾里地区では女性が男性以上に地域の漁業を担っている)を拾うことが出来ていないこと、地区内にある仮設住宅地の被災者が現在抱えている課題がワークショップでは表出されないことが分かった。これらの情報を集める回路はなかったため、これらに対しては個別的に取材やワークショップ等を行って情報を収集することとしている。

2)計画や議題の提案
 外からの情報を適宜に提案をしている。大学の研究室であるという強みをいかして、初めて地域を訪れた学生が地域を調査してみての感想や可能性、ワークショップの参加者の話にインスピレーションを得た提案作成、他地区の復興で議論されているアイデアをまとめて例示する、といったことを行っている。平常時であれば「提案の作成」はあまり急いで行わないが、平常時と格段に違うスピード感を求められるのが復興であり、話し合いの回数が限定され、時間も限られていることから、平常時よりはやや前傾姿勢で、研究室からの提案等を出すように心がけている。

3)まちづくりニュースの発行
 上記の情報を流すために、月に1度のペースでタブロイド判4ページの「まちづくりニュース」を発行し、全戸配布(約850世帯)している。例えば、第一号のニュース(2012年6月20日発行)では、復興委員会の作成た要望を地図化した情報を載せ、その横には筆者の研究室で作成した綾里地区の人口構成の情報を載せ、最終面には地区に増えている仮設建築物の現在の建設状況を載せた。このように、地区に内在する情報と、外で作り出した情報を混在させ、地図等を活用して分かりやすく加工して示している。こうしたものに対し「復興委員会の動きが初めて分かった」「要望が地図にまとまっているのは分かりやすい」などの声が寄せられた。

Fig3
まちづくりニュースの誌面

5 復興計画の内容

 こうした情報を集め、整理したところに地区の復興計画が見えてくる。自治体レベルの復興計画も同様であるが、地区のレベルで作成する復興計画についても、何を書き込むのか、法の定めも慣習的な定式も存在しない。多くの被災地では幸か不幸か高所移転と防潮堤の高さ/位置の議論が先行している。本来は地区全体がどうあるべきかを考え、その実現手段として高所移転が適切であるかどうかを判断する段階を経て、高所移転や防潮堤の実施の有無を決定していくべきであり、現状は事業手法が先行した、逆立ち型の復興が進んでいる。しかし、高所移転の議論が先行することは、住宅を一瞬で流された被災者感情を考えると尤もなことであるとも思うので、筆者はそれを問題とはしておらず、「高所移転だけで復興の議論が終わる」「高所移転計画が復興計画である」と考えられていることのほうが大きな問題であると考えている。高所移転は単なる住まいの復興に過ぎず、復興にかかる問題の全てを解決するものでは無い。地区の課題を総合的に読み取り、高所移転以外の課題を提起し、それぞれの結論が出るように情報を集め、議論させ、流通させ、情報の質を高めていくことが求められる。

 既述の通り綾里地区では、すでに高所移転の位置や参加者、防潮堤の位置や高さについての議論や合意形成は最初の一段落を過ぎている。それをふまえ、高所移転だけで復興の議論が終わらないように、筆者らはワークショップ等を重ねながら得た情報をもとに、次のように高所移転を含む地区の課題を再整理し、部会の検討課題としている。これらについて、必要な情報をさらに収集し、部会で議論を行い、計画として練り上げていきたいと考えている。また、あくまでも現時点の課題の整理であって、これからの検討で項目が増えたり細分化したりする可能性がある。

1)道路網:津波からの避難路の整備に加えて、被災後しばらくは地区の中で各集落が孤立し、病人やけが人等の輸送や支援物資等の運搬等に支障をきたした。もちろん、平常時に使いやすい道路も必要である。「避難モード」「緊急対応モード」「普段使いモード」の3モードに対する適切な道路網整備が必要である。

Fig4
道路網の検討時には日建設計ボランティア部の開発した「逃げ地図」を活用している


2)防潮堤のデザイン:位置と高さは一定の合意を見たが、巨大な構造物が2階建てを中心とする集落に出現することになる。景観的な工夫を行う、別の施設(避難路等)を複合させる、といった詳細な検討が必要である。これについては岩手県がガイドラインを発表しており、これを参考にして、地区の合意を形成する必要がある。

3)高所移転住宅地:高所移転で造成される住宅地の内部については、入居希望者と防災集団移転促進事業で雇われたコンサルタントが主になって検討するが、そこへの接続や、住宅地内に作られる集会施設等は住宅地に隣接する集落が関わって決めるべき事項である。

4)地区の建物のルール:例えば低地に出来る建物にはRCの構造を課す、新しく出来る宅地には将来の建増しに備えて余裕を持たせる、高所の宅地は敷地内に低所に向けての避難用の私道を作る・・といったルールを定めておく必要がある。綾里地区にはかつての復興地があり、50坪で切られた比較的狭い宅地に漁家型の巨大な住宅が密集して建っている、という独特の景観を形成している。しかし、この復興地が余裕を持っていなかったため、そこから溢れた建増し部分が被害を受けた、という経緯もある。こうした地区固有の教訓を明確にし、検討を進めていく必要がある。

5)低地の土地利用方針:防災集団移転促進事業の移転促進区域、あるいは災害危険区域の指定を受けたところには、住宅以外の用途の建物が建つことになるが、それ以上に農地や農地にも利用されない荒れ地が出現することも想定される。外部には防潮林を植えるというアイデアもあるので、こういったものを参照にしながら土地利用方針を決めておく必要がある。

6)高齢者福祉と住宅:漁業は家内総出で取りかかるものであり、漁繁期にはフル回転で仕事をするという。高齢者の介護等を家族外で担えるサポート体制を作ることが、漁業の復興のためにも必要であるが、綾里地区の住民が多く利用していた越喜来地区の老人福祉施設が被災し、宿泊でケアが出来る施設が近辺になくなってしまった。また一方で、被災した多くの高齢者世帯が地区内の仮設住宅団地に入居しており、一部は地区内に建設が予定されている県営住宅への入居を希望している。仮設住宅ー県営住宅ー高齢者福祉施設を総合的にとらえ、地区を離れることなく高齢者が住み続けられ、家族も介護をすることが出来る施設整備を進める必要がある。

7)漁業施設:漁業収入が主要な綾里地区にとって、復興の一つの核となる漁港周辺には様々な漁業関連施設が立地することになる。個々の施設の機能を検討し、相互の関係を十分に検討して計画する必要がある。これからどのような漁業を行っていくか、将来の変化にどう備えるかなどに施設の種類、立地、配置が大きく影響されるため、これらを踏まえて計画する必要がある。

6 これからの展望

 上記の計画課題を2012年の8月に開催される予定のワークショップで更に検討し、その結果をまとめて地区復興委員会で検討し、合意事項としてとりまとめて「復興まちづくり計画」とする予定である。個々の項目については、行政サイド(大船渡市役所、岩手県庁)と情報交換をしながら検討を進めており、地区復興委員会での合意を経たら、行政との協議が行われる。その結果をさらにフィードバックし、追加の検討を進めていくことになると思われる。次に報告の機会があれば報告をしたい。

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