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2017年2月27日 (月)

多摩ニュータウンの南側プロジェクトを始めました

現在の大学に着任してすぐに多摩ニュータウンに引っ越してきてもう15年ほどになるのですが、ニュータウンは随分もったいないことになっているなあ、と思っていました。
多摩ニュータウンは戦後の都市デザインの粋を凝らした大プロジェクト。どれくらいの粋かというと、実は多摩ニュータウンを作り始めてすぐの1973年に日本の住宅は足りてしまい、住宅不足を解消するというニュータウン建設の大義はなくなってしまったのです。本来ならば事業が打ち切りになっていてもおかしくはなかったのですが、その時にニュータウンの大義は「量から質への転換をとげる先導的プロジェクト」と再定義されます。ですからそこから先は、ただひたすら「質の高いデザイン」を追求してくわけで、2000年頃に「もう住宅建設は民間に任せようよ」となるまで(具体的には住宅都市整備公団や公営住宅を新しく作らなくなるまで)の約30年間、それぞれの時代において、その時代の少し先を読んだデザインの粋が実現化されているのです。
もちろん、未来が読んだ通りに動いたわけではないので、当時は「これだ」と思って作ったもののように時代が進まず、今からみると、一昔前のSF映画を見るような「奇妙な未来」がそこに存在することもあります。とはいえ、その未来は突拍子も無い、ただデザイナーが先走って作ったものではありません。「量から質へ」と「量」が枕詞にくっついているところがポイントで、デザインは常に「量への構え=普遍」を意識したものになっています。つまり、普遍的なデザインをもつ普通でないもので出来上がっているのが多摩ニュータウンです。
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ニュータウンのごくありふれた街角の風景
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しかし、多摩ニュータウンのパブリックイメージは決してよいものではありません。「人工的で非人間的」「ニュータウンからオールドタウンへ」というような言葉が一人歩きし、多摩ニュータウンは時代を象徴したプロジェクトであったが故に、常に時代の最先端の悪口を言われてしまう、そんな損な役回りにあります。
2年前から大学でスタートした多摩ニュータウンを学ぶ授業において、学生が多摩ニュータウンをから既成市街地の府中に向けて、横断的に公示地価を拾ってみる、という作業をやってみたのですが、府中からこちらに向かって、多摩川を越えたあたりから地価ががっくり下がります。普通の町よりもはるかに公園が多く、はるかに交通渋滞の無い町なのに、市場の評価は見事に反転しているのです。
ああ、もったいない、面白いのに。
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そんなことで(ここからが本題)、もったいないなあ、と思っていたところに、日本総合住生活という団地の管理などを主に請け負う会社から、「ニュータウンの遊休施設を使って、周辺の再生をやりたいので、手伝ってくれませんか」と声がかかりました。遊休施設は八角形のインパクトのある外観の通称「八角堂」。この建物も、その横を通っていたので、常日頃からもったい無いなあ、と思っていた建物です。
遊休施設はエリア再生の種地みたいなもので、周辺を再生するときに足りない機能をそこにいれたり、周辺の人たちのソーシャルキャピタルを形成するために、施設の使い方を考えるワークショップをやったり、色々と使うことができます。そろそろ出だしている空き住戸のクラブハウスとして使ったらどうか、住民さんたちがDIYリノベをするときの拠点として使ったらどうか、北側にある公園(これがまた豊ヶ丘南公園という傑作)を使い倒すための拠点として使ったらどうか、やたらとある緑地に農業を仕掛けていく時の拠点として使ったらどうか・・、ああ、なんて面白そうなんだろう、とそんなことを考えて、昨年の暮れからいくつかの新しい仕掛けをスタートしました。
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八角堂の内部。もともと住宅リフォームの展示場として建てられたもの。妙にハイスペックです。
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まずはプロジェクトのエリアと名前、これまでのパブリックイメージを反転させるために、「多摩ニュータン南側プロジェクト」という名前をつけました。「南側」というと、日本人にはよいイメージですが、多摩ニュータウンはゆるい「北側斜面」に形成され、鉄道と幹線道路の主要インフラが一番低いところ=北の端につくられたので、南側は駅から通く、少しあがったところになります。必然的に地価は落ち、ニュータウンの中でも人気がないエリアになっています。
南側にあって、日当たりもよさそうなのに、喧騒から離れてゆっくり暮らせるのに、ああ、もったいない、ということで、エリアを多摩ニュータウンの南側にしぼり、重点的に展開していくことにしました。
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ロゴも考えました
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そして八角堂。私たちが関わる前から、八角堂再生の最初のプロジェクトとして、ベーカリーが入ることが決まっており、昨年の後半にまずベーカリー「moi bakery」がオープンしました。それだけで、街並みが一新するほどのインパクトがありました。(八角堂は角地にあるので、とても目立つのです)
moi bakeryが1階の2/5くらいの床を使っているのですが、残りの1階部分と2階部分の使い方は決まっていません。ああ、もったいない、ということで、2階部分に大学で「多摩ニュータン南側実験室」を作ることにしました。アーバンデザインセンターを名乗るほどの根性もなく、「研究室」のように研究するわけでもないので、「実験室」です。そこに週に2日間、moi bakeryの開店日ともあわせて、木曜と金曜に、大学のスタッフ(饗庭研究室を卒業して、アトリエ設計事務所で修行を積んだ二人)が、常駐することにしました。大学からは車で10分くらいなので、饗庭も時々実験室に行って、moi bakeryのパンを食べながら仕事や打ち合わせをしています。
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そして人的なネットワークづくり。実験室を拠点にして、南側でいろいろなことをする人のつながりを作ろうと、ワークショップやイベントを重ねています。多摩ニュータウンは市民活動も盛んで、もともと人的なつながりには恵まれたところなので、そのやや強い結び目の一つになろうとしている、ということです。
一つの仕掛けはワークショップで、2月の18日に開催しました。その辺の人たちに集まってもらって、いろいろなアイデアを考えていただく会。もう一つの仕掛けは「多摩ニュータン南側プラットフォーム」というもので、おおよそ月に一度、ニュータウンに関わる企業さんを中心に集まっていただいて、あれやこれやと議論しながら、出来そうな事業を考えて実践していく会。この二つの仕掛けを立ち上げながら、何ができるかな、ということを少しずつ探り出しているところです。
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市民ワークショップの風景
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数ヶ月ほど、取り組みを始めてみてつくづく感じたのは、空間もよし、人もよし、という街だということ。磨きがいのある空間がゴロゴロしていますし、人と企業のネットワークもあっというまにどんどんつながります。ですので、その関係を少し結びなおし、流れを整えることで、いろいろなことができるようになるんじゃないかな、と考えています。
近いところでは、3月11日に饗庭が大学で受け持っている多摩ニュータウンを学ぶ演習の地域発表会を開催します。そして3月18日には「たまらび」という多摩信用金庫がオーガナイズしている雑誌と共催のイベントも企画しているところです。
空き家や空室の調査もスタートしたので、そこで低未利用なあちこちが見つかれば、リノベーションをかましながら、何らかのプロジェクトもスタートできるなあ、と考えているところです。
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最後に、3月11日の地域発表会の案内をつけておきます。こちらもぜひおいでください。
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首都大学東京 都市空間プランニング実習 地域発表会
多摩ニュータウン 落合・鶴牧・唐木田住区から学ぶ
首都大学東京では「都市空間プランニング実習」(東京都都市づくり公社寄付講座)において、落合・鶴牧・唐木田住区を対象とした多摩ニュータウンについての学習・調査を行いました。これまであまりまとまって研究されることのなかった各住区の全体像や、設計の経緯を掘り起こす貴重な機会となりました。その成果を、地域の方々をはじめとする、広く社会と共有したく、地域発表会を開催いたします。ふるっておいでいただけますよう、お願いいたします。
2017年3月11日(土)
9:30-12:00 落合・鶴牧・唐木田地区まちあるきツアー
   (定員20名・要事前申込・無料)
11:00-14:20 成果展示会(会場に成果を展示し、学生が解説します)
   (於 JS 多摩八角堂)(事前申込不要・無料)
14:30-16:00 公開ミニシンポジウム
   (於 JS 多摩八角堂)(定員50名・要事前申込・無料)
   中島直人(東京大学)
   田中暁子(後藤・安田記念東京都市研究所)
   松本真澄+武岡暢(首都大学東京)
   成瀬惠宏(都市設計工房代表)
   饗庭 伸(首都大学東京) 
会場 会場:JS 多摩八角堂(多摩市豊ヶ丘5-5 多摩センター駅徒歩25分)
問合せ・申込先:武岡暢(首都大学東京)
takeoka@tmu.ac.jp 080-4146-9726
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