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2017年3月28日 (火)

2016年度の饗庭研究室修士論文

今年は4人の学生が饗庭の研究室を修了しました。4人とも学部は違う大学だったので、大学院の間の丸々2年間のおつきあいです。鶴岡での街路デザインのワークショップを一緒に動かしたり、綾里での博物館を一緒に作ったりした学年、ちょうど都市づくり公社の寄付講座がスタートしたので、参加型デザイン実習(大学の池に夕涼みの場所をつくったり、モバイル図書館をつくったり)、グローバル都市東京研究(アジアの学生を東京に案内するスタディツアーを企画したり)、都市空間プランニング実習(多摩ニュータウンにやたら詳しくなったり)をたっぷりと経験した学年になります。
それぞれ自分なりに研究テーマを固めて、面白い論文を仕上げてくれました。
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廣田眞美子さんは、空き家特措法の制定後に、全国の自治体がどのような政策に取り組みつつあるのか、横断的な実態調査に取り組み、特に空き家やその跡地を「まちづくり」に活かしている施策の実態を調査しました。空き家に関する政策はほっておくと「特定空き家」を特定して壊すことが最大のイベント、あとは適当に空き家バンクでも作っておきましょうか、という感じになりそうな中、空家跡地の活用についての施策を展開することがこれからの大事なポイントになるんじゃないかなあ、と考えているところで、そのあたりの実態調査に取り組み、全国の自治体から20くらいの空家跡地活用支援の制度を抽出し、その中でも饗庭も関わっている鶴岡のランドバンクの取り組みを詳細に調べました。鶴岡のランドバンクは一つ一つの事例の個別的な状況にあわせてやりかたを細かくチューニングして解いており、その多様さを客観的な手つきで明らかにしました。他の全国の空家跡地活用支援の制度も、いずれ調べてみたいなあと思っていますが、廣田さんの修論としてはここまでです。
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長崎舞子さんは、空き家などを活用して住宅地の中につくられる拠点のようなものを「弱く開かれた場」と定義して、調布市や稲城市といった大都市郊外の住宅地の中にあらわれた「弱く開かれた場」の実態を詳細に明らかにしました。この手のケーススタディにおいては、例えば在宅介護の支援施設のリストや、NPOのオフィスのリストを使って、網をかけていくように絞り込んでケースを抽出することが普通ですが、それだと特定の機能に属するものしか抽出されない、ということになってしまいます。ですからこの研究では、特定の地域を歩いて探し、長崎さん流のこだわりで見つけた事例から共通点を探しながら「弱く開かれた場」を定義していく、という何とも根気のいる作業に取り組みました。最初から最後まで、自分の問題意識を掘り下げながら、つねに仮説を描き続けるという作業ですね。住宅地が成熟するとさまざまな機能を持った、機能を複合させた空間が地域に現れてき、そこには都市計画の議論、土地利用計画の議論が少し発生するのですが、その一端を明らかにすることができたように思います。
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張鈺さんは、中国から留学してきた80年代の若者が、留学後に日本の都市の中でどのように住宅を選択していくのか、を明らかにしました。外国人居住の問題は、例えば新大久保や川口の芝園団地など、特定の国籍の人が集中したところ=何らかの問題が発生していそうなところがこれまで対象になってきましたが、多くの中国の人は集中せずに、普通に隣人として多く暮らしているわけで、彼らはどこからやってきて、どのような考えで居住地を選択しているのだろうか、ということに注目をしました。最初は日中友好会のようなところにお願いをして、在日中国人のアンケート調査を行おうかと企画したのですが、どこにも断られてしまい、最終的に張さんが編み出したのは、入国管理の手続きにやってきた人を捕まえて、ひたすらインタビューを重ねていく、という方法で、80年代生まれの29人の人のデータをとることができました。そんなことを調べた統計はもちろん存在しませんので、貴重なデータがとれたのだと思います。結論は「中国の人たちは、日本の人たちとそれほどかわらず住宅を選択する」という、拍子抜けするほどシンプルなもの。来日当初は日本語学校のある新宿や池袋に集中しますが、その後は入学した大学の近くに転居し、やがて就職や結婚等にあわせて動いていく。大きく言えばそういう流れですが、細々とした移動に中国人ならではの理由が透けてみるようでもあり、まだまだ展開できそうな研究でした。
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稲葉美里さんは饗庭の立地適正化計画の調査にくっついてきたりするなかで「地方の工業都市とコンパクトシティ」というテーマで研究に取り組みました。地方都市にとって工場(といっても、重工業、加工業から流通業までいろいろなのですが)は、朝晩の通勤行動を大発生させたりするなど、都市構造の重要な要素。しかし、コンパクトシティの政策、さらに言えば都市計画に組み入れるにはなかなか厄介で、都市計画であまり明確な位置付けをもちません。では地方都市に立地した工場が、市街地の形成にどのような影響を与えたのか?ということに取り組んだ研究です。全国的なアンケート調査をしたほか、こまかなケーススタディとしては岩手県の北上市にお世話になりました。調べてわかったことは、やはり都市計画において工場はあまり丁寧に扱われていない、ということ、しかし、北上の工場にアンケートをしたら、それなりに市街地に立地する寮や家賃補助の仕組みを持っている、市外から工場に就職した人がまちの中に住む後押しになっていそうだ、ということがわかったので、施策化するとしたら、工場それぞれの持つ住宅支援策に介入し、住宅地の再編成につなげていくということはできそうかも、という結論でした。工場と都市の研究は、いわゆる企業城下町の研究は蓄積があるのですが、現代の工場は複雑な挙動をします。そこに少しだけ切り込めたかなあ、という研究です。
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いくつかは、学会に発表をしようと準備をしているところなので、ご期待ください。

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