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2018年2月

2018年2月18日 (日)

多摩ニュータウン「ライブ長池地区から学ぶ」のシンポジウムを開催しました

先週の土曜日は多摩ニュータウンのことを半年かけて徹底的に学習する「都市空間プランニング」(東京都都市づくり公社の寄付講座)の地域向け発表会でした。今年の対象はわたくしも住んでいる「ライブ長池地区」。多摩ニュータウンにおいて、常に時代の最先端として問題を提起し続けているのが「諏訪・永山」という地区。オールドタウンだ、近隣商店街が空き店舗だらけだ、東京砂漠だなどと、さんざんな扱いを受けているところ。報道も研究も政策も、そこになぜか集中しているので、この授業ではバランス(?)をとるために、諏訪・永山以外を順番にやっています。1年目は貝取・豊ヶ丘、2年目は落合・鶴牧・多摩センター、そして3年目がライブ長池です。この3つはだいたい順番に(細かくはいろいろありますが)できていて、ライブ長池は90年代くらいに分譲されていく開発です。
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ライブ長池 イメージイラスト(UR都市機構のパンフレットより抜粋)
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多摩ニュータウンは住宅、商業、交通、ランドスケープなどといろいろな冒険をしているのですが、ライブ長池はどういう冒険をしたのでしょうか。
ざっくり言いますと、住宅の間取り周りの基本的な冒険はこの時期はあらかたおわり(落合・鶴牧・多摩センターで基本的なアイデアは出尽くしている)、それをランドスケープにあわせてどう配置していくかという冒険、住宅の建物で景観をどう作っていくかという冒険、コーポラティブ住宅という生産方式の冒険が取り組まれました。コーポラティブ住宅は間取りの新しい冒険につながる可能性はあったのですが、ライブ長池にあるもの(ヴェルデ秋葉台とノナ由木坂)は、そこでは勝負せず、生産方式やコミュニティ形成で勝負した感じです。
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コーポラティブ住宅 ノナ由木坂配置図
「多摩ニュータウンの住宅建設資料集 別冊集合住宅プラン集 2005年改訂版」より抜粋
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商業は、駅前の「道空間=四季の道公園」とVIA長池の吹き抜け以外は、一言でいうと勝負を捨てた感じ。近隣センターをつくろうと考えたけれども作られず(現在のPCデポーのあたり)、あとは土地だけを準備して、外部資本大型店同士の喰い合いに委ねてしまいました。駅前の「道空間」とVIA長池の吹き抜けは、今は惜しくもどちらもホコリをかぶったような感じになってしまっていますが、もとのデザインがよいので、レガシーとして磨けば新しい価値を発揮するようなポテンシャルはあります。「ガウディのコピー」とか「バブルの遺産」なんて陰口を叩かずに、しっかりと価値を前面に出していけるとよさそうです。
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四季の道公園 イメージパース(新都市センター開発のパンフレットより抜粋 1990年)
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交通は、理念的な歩車分離をやめて、現実的な歩車共存へと舵を切ったころ。これをさらなる冒険ととらえるのか、冒険の終わりととらえるのか、微妙なところです。ライブ長池地区は、多摩ニュータウンのそれまでの地区と違って、学校にも車で入れるし、全ての商業店舗にも車で行ける、ということです。「コミュニティコレクタリング」という円環状の道路が街区をつなぐものとして計画されているのですが(我が家の前も通っている)、これは2車線の道路の両側に広幅員・高デザインの歩道をつけたもので、つまりは歩車共存を象徴しているわけです。これで事故が増えたようには思えないのですが、小学校の登校時には交差点に自治会のボランティアさんが立っており、最後は人力に頼る、ということが歩車共存の落とし所ということですかね。
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コミュニティコレクタリング(赤色の道路)
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そしてランドスケープは、ニュータウン史の中で、ホップ・ステップ・ジャンプの「ジャンプ」にあたる冒険が取り組まれています。ホップはとにかく公園を計画的に配置して近隣住区理論を忠実に守ろう、というもの(諏訪・永山・貝取・豊ヶ丘)、ステップは均質的な空間を作り出してしまったホップの反省をして、「大観構造」という言葉を導入して「基幹空間」の導入をはかったもの(多摩センターからしばらく行ったところにある富士山が見える公園のこと)、そしてライブ長池では、幾何学的な手つきで基幹空間をデザインしてしまったステップの反省をして、もともとあった自然環境の形にあわせて緑地をつくっていきます。具体的には長池と、そこから流れてくる別所川をそれぞれ保全し、長池は周辺の里山も含めた公園とし、別所川をライブ長池地区の中を流れる「せせらぎ緑道」に転換して都市軸を形づくります。
ただし、もともとあった自然環境の全体構造を読み取った上で、住宅も含む全体のマスタープランに反映したわけではなく、すでに他のエリアで五月雨式に進んでいた土地の造成と住宅地開発をゼロベースで描きなおした、わけではありません。(むしろ、マスタープランから描かれたものが実現したという意味では、自然地形案を流用してつくられた貝取の北部のエリアのほうが興味深いです)エコロジカルランドスケープのリテラシーが発達した現在からみると、もう少し違う答えが出てきそうです。私はランドスケープの専門家ではありませんので、先鋭的な専門家のご意見をうかがいたいところです。
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発表会の午前中はパネルの展示会と、それと並行してまちあるきを行いました。パネル展示には近所の方がぽつぽつとおいでいただき、みなさんがかなりの時間を使ってパネルを読み込んでおられたり、学生と意見交換をしてくださったことが印象的でした。
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午後のシンポジウムは、藤村龍至さんにゲストでおいでいただいて話題を提供いただき、教員(田中暁子さん、松本真澄さん、市川竜吾さん)からそれぞれの視点での問題提起、それらをまとめて饗庭から成瀬惠宏さんに質問をぶつける、という組み立てで進めました。
論点を整理するにあたっては、以下のようなダイアグラムを描きました。赤い字は多摩ニュータウンに関する論点、青い字が藤村さんから提供いただいた、埼玉のニュータウンに関する論点です(これはその場でスライドに描いた図なので、荒っぽいです)。
地区の特性はいろいろとあるのですが、やっぱりこの地区の特性の基底にあるのは、ニュータウン開発の「民間化」だというダイアグラムです。例えば、公団は再編にともなって2000年ごろから新規の建物開発を行えなくなり、ニュータウンの用地は民間に売却するか定期借地権をつけて賃貸するしかなくなります。つまり公団や公社が直営でデザインをやり切ることができず、仕様書や指示書のようなものを通して民間へ意図を伝えることになります。
「民間化」の移行先は、「建築家・アーティスト」と「ディベロッパー」のあえて二つに分けました。この二つの分裂、断絶も問題だと思うからです。そして下のほうに「コミュニティ」があります。ニュータウンをどう設計してきたかがテーマだった今回のシンポジウムの立て付けでは、コミュニティがあまり登場しなかったからですが、「民間化」の移行先にはもちろんコミュニティがあるべきだったのだと思います。
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とても長い目で見ると、この「移行」はまだゆっくりと進んでいます。例えば、せせらぎ緑道やコミュニティコレクタリングは市に慣性的に移行され、市が慣性的ににメンテナンスをしているわけですが、そのコストは大八王子市のお財布の中ではそれほど顕在化していません。しかし、いずれ大八王子市次第ではメンテナンスができなくなることもあるわけで、そこは慣性的な移行の流れを変える何かが必要なのだと思います。
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長池公園に移設された四谷見附橋(現長池見附橋) これをメンテナンスし続けられるか?(撮影 林雄太)
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饗庭は展示会側の担当だったのでまちあるきには同行していないので、途中でどんなハプニングがあったのかは知らないのですが、事前に簡単に準備した見所は以下の通りです。じっくり歩くと3時間コース。皆さんもぜひ歩いてみてください。
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みどころ1:京王堀之内駅前のアーバンデザイン
 商業施設「VIA長池」は2核1軸の核を構成するもの。斜面地である地形のため、地形に埋め込むように作られた。屋外自由通路「四季の道公園」は駅前のアーバンデザインの目玉としてつくられた。デザインはガウディではなく雪国をイメージしたもの。もともとは短期間で使い終わる予定だった。イタリアからアーティストや職人を招聘し、若き日の安田侃の作品もある。アートディレクターは山本忠夫氏。
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みどころ2:斜面住宅地(エミネンス長池・コリナス長池)と斜行エレベーター
 使いにくい駅前の急な北側斜面を集合住宅で仕上げていったもの。公団百草団地、グリーンヒル貝取に続く、公団の斜面集合住宅の取り組み。コリナス長池の半円柱状のボリュームの中には単身者向け住戸が計画されている。
 斜面地の上下動をサポートするために、珍しい斜行エレベーターが設置された。
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みどころ3:ヴェルデ秋葉台
 東京都住宅供給公社が計画・分譲した、全115戸の大規模なコーポラティブ住宅。コーディネーターは大久保隆行氏。斜面地を活かした設計となっており、住棟に挟まれた中庭空間が魅力の一つ。多摩ニュータウンのコーポラティブ住宅のうち、コープタウン松が谷、AZ松が谷以外はライブ長池地区に集中している。他にコープタウン見附橋、ヴィレッジ浄瑠璃など。
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みどころ4:せせらぎ緑道
 2核1軸の都市構造にのっとった「軸」として、長池公園と堀之内駅前をつなぐ緑道。もともと谷筋を流れていた別所川(谷戸川)の流れをニュータウン開発区域に移し、人工的に作り出したもの。上流から下流まで、その場所のデザインにあわせた水辺空間がデザインされている。途中で橋の上を流れることに注目。
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みどころ5:コミュニティ・コレクタ・リング
 ライブ長池地区内を結ぶリング道路。無電柱であり、レンガが敷き詰められた高質なアーバンデザインが随所に施されている。この道を辿ると様々な都市デザインを楽しむことが出来る。ゴール(長池公園)からの帰り道も楽しめる。
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みどころ6:ノナ由木坂
 東京都住宅供給公社が分譲した、全252戸の大規模なコーポラティブ住宅。コーディネーターは大久保隆行氏。斜面地を活かした設計となっている。住棟に挟まれた路地的な空間、せせらぎ緑道と一体的にデザインされた住戸が魅力の一つ。
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みどころ7:長池見附橋
 四ツ谷見附橋(1913年)を解体移築してきたもの。1993年の移築から20年以上が経過し、手前に計画された姿池とあいまって、近代的な景観を創出している。橋のたもとには民間の結婚式場が立地し、美しいが不思議な景観を形成している。姿池のほとりに見附橋の謂れを説明する看板がある。
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みどころ8:長池公園 築池および長池
 もともとあった里山と池を保全したもの。これだけの大規模な里山を残した計画は当時は最先端だった。近隣住民で結成されたNPOが里山管理等も担っており、子供達向けの講座やワークショップが多く開催されている。
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みどころ9:長池公園自然館(長池ネーチャーセンター)
 長池公園の敷地内に、自然学習の拠点として作られた公共施設(2001年)。設計は野沢正光建築工房。屋上緑化、OMソーラーシステムの導入、太陽電池による発電など自然エネルギー利用を様々な方法で行った環境共生型建築。

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